1970年代、デビアスは日本をターゲットに、0.2~0.3カラットの小粒のダイヤモンドをセットしたソリテールを「婚約指輪」と称し、広告代理店と組んで「婚約指輪は給料の3カ月分」というプロモーションを大々的に展開しました。

 これにより、ダブついていた1カラット以下の原石の需要が高まり、産出が多く供給過多に陥っていた小粒サイズの需給バランスが改善したのです。

 この戦略は、バブル経済のもとで熱狂していた日本で大成功を収めました。じつを言えば、私自身も当時、そうした小粒のダイヤモンドを数多く輸入し、国内の業者に卸していました。デビアスが小粒石のソリテールキャンペーンをしたことで、国内業者がそれに乗り、小粒石が飛ぶように売れたからです。その意味では私も間接的に(かつ、今とちがって無批判に)「タンスの肥やし」を増やす片棒を担いでいたわけです。

 ただ、言い訳めいて聞こえるかもしれませんが、自社製品のSUWAブランドでは、そうした小粒石のソリテールは一切、製造も販売もしませんでしたし、現在もしていません。

 また、デビアスの経営陣のなかには友人もいますが、彼らが真摯に市場と向き合っているということも付言しておきます。

「タンスの肥やし」を買わぬよう
宝石を見定めるポイントとは?

 さて、ここまで読んでこられて、なかには「デビアスの戦略が巧みだったとしても、別にまがい物を売っているわけではない」と思う方もいらっしゃるでしょう。

 確かに、そのとおりです。ニセモノを本物と称して売っているわけではない。

 ただ、そう考えている時点で、「タンスの肥やし」を買わされてしまう予備軍であることを自ら証明しているようなものです。先ほど、小粒ダイヤのソリテールを販売する小売店や販売員を指して、不遜を承知で「無知」といいましたが、要するに売る側も買う側も“宝石の常識”を知らないのです。