抗老化物質「NMN」の効果は?

 一方、NADを効率的に増やして老化を防ぐ方法として米国、日本、中国のセレブを中心にブームとなっているのが、ビタミンB3からつくられる食品成分NMN(ニコチンアミド•モノヌクレオチド)だ。

 NMNを飲むとすぐに血中に入り、各臓器でNADに変換される。マウスを用いた研究で、NMNによって2型糖尿病、肥満、アルツハイマー病、眼の網膜や免疫機能など、老化によって起こる病気や機能低下が改善したとの報告が相次ぎ、ブームに火が付いた。すでにさまざまな企業が抗老化物質としてNMNカプセルを販売しているが、効果はあるのだろうか。

「世界各国で臨床試験が行われている最中で、NMNによって、人の老化を遅らせられるかはまだ不明です。私たちワシントン大学の研究グループが閉経後の糖尿病予備軍の女性を対象に実施した臨床試験の結果では、NMN服用群で、血糖値を下げるインスリンの利き方が骨格筋(骨格を動かす筋肉)で25%高まりました。これは、10%体重を減らしたとき、つまり70㎏の人なら63㎏に減量したときに得られる効果に匹敵します。また、NMNによって骨格筋を再構築する能力が高まることもわかりました。これはマウスによる研究ではわからなかった成果です」

 ただし、これはあくまで、閉経後で糖尿病予備軍の女性がNMNカプセルを1日250㎎、10週間服用し続けた場合の結果だ。自由診療のクリニックなどで、NMNの点滴療法を実施しているところがあるが、NMNを点滴することの安全性と有効性は検証されていない。

「私たちの体内には、NADを壊す酵素もあります。点滴療法などによって体内のNMNの濃度が急激に上がると、NADを破壊するこの酵素のスイッチが入り、健康障害を起こす恐れがあります。NMNの点滴療法は安全性が確認されていないので控えましょう」