ちょっと小太りの方が
死亡リスクが低い?

 ところで、アカゲザルなどの研究では、栄養バランスは整えつつも食事で摂取するカロリーを減らす「カロリー制限」が寿命を延ばすと報告されている。カロリー制限は人間にも有効なのだろうか。

「カロリー制限は人でも、ある程度は寿命を延ばす効果があると考えられています。ただ、私たちの研究では、脂肪組織がeNAMPTを分泌して、脳の視床下部とコミュニケーションを取り、老化・寿命を制御していることがわかってきました。老化を遅らせて健康を保つためには、脂肪組織を減らし過ぎないようにすることも重要なのです」

 人でもマウスでも、高齢になると急激に脂肪が失われ、やがて死に至るが、それには特定の神経細胞が関わっていることもわかってきたという。

 40歳以上の日本人約35万人を平均12年半追跡調査してBMI別の死亡リスクを調べた結果でも、BMIが21未満のやせ過ぎの人たちは、肥満の人以上に死亡リスクが高かった。ただ、調査時に病気だったり喫煙したりしていたために死亡リスクが高かったことも考えられる。

 そこで、5年以内に死亡した人を除外したり非喫煙者のみで集計してみたりしても同じように、やせ過ぎとBMI30以上の肥満の人の死亡リスクは高かった。死亡リスクが最低になるのはBMIが23~27の間、つまり「ちょっと小太り」の範囲だ。

 ちなみに、BMIは、「体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)」で計算できる。試しに、自分のBMIを計算してみよう。

BMIと全死因の死亡リスクの関係

BMIが23.0~24.9を1とした場合の死亡リスク
J Epidemiol.2011;21(6):417-30.のデータを基に作成

「脂肪は健康の維持に非常に大事な働きをしています。中高年は、医師に減量を勧められている人以外は無理にやせようとせず、ちょっと小太りくらいの方がいいということです。最新の老化・寿命研究による知見を実生活に応用し、体の持つリズムを保ち、脂肪を適度に保ってNADを増やすような生活を心がけることで、健康寿命を延ばして、死ぬ直前まで健康を保って人生を楽しみ社会に貢献し続けながら年を重ねる“プロダクティブ・エイジング”を実現していただきたいと思います」

(監修/今井眞一郎 米国ワシントン大学医学部卓越教授)