自分の努力でNADを増やして
老化の進行を防ぐ方法は?

 では、自分でNADを増やして老化を防ぐために、朝食をしっかり取る時間制限食の他に、今すぐできることはあるのだろうか。

「もちろんあります。それは、定期的に運動する習慣を身に付けることです。オーストラリアの研究で、ウオーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動や筋トレをすると、NADの合成に欠かせないeNAMPTという酵素が筋肉や血中で増えることがわかっています。運動をすることで、NADの合成量を増やすスイッチが入り、老化を制御するサーチュインも活性化されるのです」

 中高年でも有酸素運動や筋トレをすればeNAMPTが増加することが、マウスと人に対する研究で明らかになっている。eNAMPTが血管を通って、老化のコントロールセンターである脳の視床下部に到達し、細胞内でNADの合成力が高まる仕組みだ。

 運動は、老化を制御するだけではなく、糖尿病、高血圧、脂肪肝の改善、大腸がんや乳がんなどの予防にも有効な“万能薬”とされる。しかし、国民健康・栄養調査(2019年)によると、運動習慣がある人の割合は全年齢の平均で男性33.4%、女性25.1%と少ない。特に、女性は20代が12.9%、30代が9.4%、40代が12.9%、男性は30代が25.9%、40代が18.5%、50代が21.8%と、仕事や子育てに忙しい世代で低率だ。

 健康にいいことはわかっていても、忙しくて定期的に運動できない人は少なくない。仕事に追われていても、運動が三日坊主にならないようにする秘訣はあるのだろうか。

「仕事と同じように、運動の時間をあらかじめスケジュールの中に組み込んでおくと、忙しい人でも運動が長続きします。私も日米を行ったり来たりして研究を続け、非常に忙しい毎日を送っていますが、最低週2回は筋トレと有酸素運動をする時間を確保したり、ランチ後に大学構内を20分ほど早足で歩き回ったりすることで継続できています。普段から階段を使ったり通勤のときに一駅分歩いたりするなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすことも大事です」

 今井先生らの研究グループが、若いマウスのeNAMPTを取り出して人間の70代に相当する高齢マウスに注射すると、若いマウスと同じように毛並みがふさふさに保たれて活発に動くようになった。寿命も一般のマウスに比べて16%延びたと報告している。運動でeNAMPTを増やせば、老化を遅らせられる可能性があるわけだ。