現金を貯め込む日本企業に喝!東証「PBR改革」のキモは資本コストだ写真はイメージです Photo:PIXTA

アクティビスト(モノ言う株主)が「現金や有価証券を貯め込むこと」に神経質になる理由とは?それは企業が資本コストを無視し、株主の期待に沿えていないことを意味するからだという。東京証券取引所は昨年3月、PBR1倍以下の企業に「資本コストと株価を意識した経営を」という強い要請を行い話題になったが、それでもやらない日本企業は少なくないようで──。本稿は、丸木 強『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。

「資本コスト」を
無視していないか?

 我々が現金や有価証券を貯め込むことに神経質になるのは、それ自体が資本コストを上回るリターンを生むことは不可能だからです。では資本コストとは何か、ここで少し説明したいと思います。

 企業財務のイロハのイですが、資金調達には大きく2種類あります。それがバランスシート(貸借対照表)の右側に記される、銀行などからの借り入れである「有利子負債」と、株式の発行で集めた資本や過去の税引き後利益のうち配当せずに残した利益剰余金などによる「純資産=株主資本」です。また左側には、調達した資金をどう使っているか、事業などに用いている「資産」が記されます。この左右の金額はかならず一致するので、バランスシートと呼ばれるわけです。

 資金調達は、もちろんタダではできません。それが資本コストです。銀行から借り入れれば、金利負担が発生します。これは、資金の貸し手が要求するコストです。

 また一見わかりにくいのですが、株主資本にもコストがかかっています。株主としては、自らの資本を提供しながら、その会社に配当金と株価の値上がりを期待しているわけです。

 企業がその期待に応えているかどうかを測る指標の一つが、ROE(株主資本利益率=当期純利益÷自己資本)です。自己資本とは、資本金、剰余金などに「その他の包括利益累計額(保有する有価証券の評価差額金など)」を加えたもの。要するに資本を使ってどれだけ効率的に利益(当期純利益)を生んでいるかを見るわけです。この数値が株主資本コストを上回っていれば、理論的には株主の期待以上の収益性があり、株主資本は価値を生んでいることになります。株価はPBR(編集部注/株価純資産倍率。株価が純資産の何倍まで買われているかを見る投資尺度)1倍を超えるでしょう。

 株主資本コストの平均はだいたい8%程度とされています。資金の貸し手よりも株主資本の出し手のほうが高いリスクを負っているのだから、負債の金利コストより高くなるのは当然でしょう。だとすれば、ROEも8%を超えることが経営の最低条件ということになります。