“現金の貯め込み”は
株主の資産価値を毀損する

 また株主資本だけではなく、有利子負債も含めた投下資本全体から企業の収益力を測る手もあります。負債コストと株主資本コストを加重平均したものを、加重平均資本コスト(WACC=Weighted Av-erage Cost of Capital)と言います。負債コストより株主資本コストのほうが高いので、自己資本の比率が高い会社ほど資本コストは高くなります。

 一方、会社の収益(税引き後営業利益)は有利子負債と株主資本という投下資本を用いて得られるので、これを投下資本合計で割ったものを投下資本利益率(ROIC=Return on Invested Capital)と呼びます。つまり、企業が事業活動のために投じた資金を使って、本業でどれだけ利益を生み出したかを示す指標です。このROICがWACCを上回ることが最低限の条件であることがわかると思います。

 資産として現金を貯め込むことの不合理性の根本的な理由はここにあります。現金は何も生みません。銀行預金ならわずかな金利は得られるでしょうが、資本コストには遠く及びません。つまり、株主にとっては、自らの資産価値を毀損されていることになるわけです。その額が大きいほど、当然ながら会社全体の収益性は下がります。資本コスト以上のリターンが得られる何かの事業への投資に使うか、それでも余るなら自社株買いや増配で株主に還元するのが筋でしょう。

 また将来的に資金が必要になったら、あらためて調達すればいい。その際には、原則として、増資より借り入れのほうがコストを低く抑えることができるということです。

日本の経営者は
株主重視の経営をしない

 2023年3月、東証がすべての上場企業に対して資本コストと株価を意識した経営を行うよう改善要請を出し、特にPBR1倍以下の企業に対し強い要請を行い、話題になりました。