ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

社員同士が常に競争を強いられる組織では、周りは全員ライバルのため人間関係がギスギスするし、仕事を1人で抱え込みがちだ。伝統的日本企業から気鋭のスタートアップ企業に転職した女性は、そうした苦境をいかに脱して仕事を楽しいと思えるようになったのか。本稿は、勅使川原真衣『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「周りはライバル、お手並み拝見」
の意識を切り替えるまでの苦悩

 組織開発を支援する勅使川原真衣ことテッシーの、クライアント先のエース社員・エリコさん(仮名、30代前半)は、伝統的日本企業(JTC)を経て、現在のスタートアップ企業に転職した。

 以前のピラミッド型組織は、自身の職務が明確で、やったことを上司が見て査定するという整った環境だった。そこから一転、上から与えられる職務というのはほぼ存在せず、「組織のパーパス(目的)のため、自分ができることをやってください。以上」という環境に置かれた。苦悩するエリコさんが、どう「働き方」を見いだして成功できたのかをテッシーに明かす。

エ 自分自身が社内の上司や同僚のことを「お手並み拝見」モードで見てましたからね。そりゃあ周りもすぐ気づきます。すると何が起きるかと言うと、私が見ているのと同じように、相手も私のことを「倒すべきライバル」としか見ないんですよね。何か、ミスると、周りがガッツポーズしているような気がして、居心地が悪かった。まったくもって同じことを自分もしていたわけですが。

 その後、社長と何度も何度も1on1をし、周りの仕事ぶりも徹底観察しました。テッシーさんとも月1くらいで話しましたよね。私、結構悩んでいたから、家に帰ってからも、ノートに思っていることを書き出したりもしていました。真面目でしょう?すると、だんだん分かってきたんです。

 自分の担えることを自身で考え、それを実行までとにかく周りに泣きつきながらでも、しっかりやる。これは自分や相手の能力の話ではないのだと。頭がいいとか悪いとかそういうことじゃなくて、自分の立ち位置、頭の中、懸念を含む心のモヤモヤ……ありとあらゆる目には見えない「私」について、言語化して相手に知ってもらう。

 その上で、テッシーさんの言う「持ち味」をいかに持ち寄るか?落球しないよう、助け合いの網の目をどうこしらえるか?――これが仕事をするってことなんだと初めて見えてきた感がありました。1人ではできない仕事をしているのだから、協力し合わなきゃいけないのに、これまではそれが難しかった。「あの人に手出しされたくないな、大して賢い人じゃないし」とか、「私1人でやったほうがきっともっとうまくできる」とかってガチで思ってましたから。