ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】パリジェンヌは思い通りにならないとき、「Systeme D(システムD)」で解決策を見つけるPhoto: Adobe Stock

パリジェンヌは細部まで決して詰めない

 なぜ私ばかり残業していたのでしょう。なぜフランスの会社にはさっさと帰る人が多いのでしょう。そしてなぜ、それでも会社が回るのでしょう。

 私が残業をしていたのは、いろいろな案件を勝手に抱え込んでいたからということもありますが、実はそれだけではありません。もう一つ、私と同僚のパリジェンヌの間には決定的な違いがありました。それは、私がいちいち細部まで詰めたがるのに対し、パリジェンヌは決して詰めないということです。私から見ればかなり「テキトー」なのです。

「そんなに詰めても仕方がないわよ」

 銀髪の広報部長はそう言い放ちました。私がプレス・ツアーの計画書を提出した時のことです。招待され慣れている業界トップのファッション記者を満足させるのは至難の業です。しかも今回は100名ほどが参加する大規模なツアーです。一人一人に最良の体験をしてもらうために、私は滞在先における部屋割りから、朝食の内容、空き時間の市内観光まで、プログラムの細部を詰めまくっていたのですが、そんな資料に広報部長は目も通しません。

「それより、どのスタッフを連れて行くの。業者は誰なの」

 その2点を確認しておしまいです。部長がそんな質問をしてきた理由。そして、パリジェンヌが詰めない本当の理由は後になってからわかりました。それはズバリ、詰める意味がないからです。

細部を詰めるのは労力の無駄。大事なのは、危機管理態勢を整えておくこと

 実際にプレス・ツアーに参加した記者やインフルエンサー達は、ホテルに着くなり勝手に部屋を交換してしまいました。朝食の時間だって守りやしません。私が綿密に練ったプログラムは朝から大幅にズレ込みます。現地の風味を堪能してもらおうと準備した朝食には口をつけず、「どこどこの有名なトーストが食べたい」と勝手にホテルを出て行ってしまう始末です。捜索部隊を派遣しなければなりません。

(これでプレス・ツアーは回るんだろうか……)

 初日から冷や汗の私ですが、これが綺麗に回るから不思議なものです。予期せぬ出来事が起こった時、パリジェンヌの同僚や部下は迅速機敏に対応し、さっさと解決策を見つけます。叡智を絞り、持ち前以上の力を発揮します。異様に腰が軽いのです。

 広報部長が「詰めても仕方がない」と言ったのは、このように「予期せぬ出来事しか起こらない」ことを先読みしていたからです。細部を詰めるのは労力の無駄。大事なのは、危機管理態勢を整えておくこと。機転が利くスタッフを適材適所に配置することなのです。