要因1
企業の貧困化と極端な人手不足

 現在、日本の雇用環境はある意味で過去最悪の状況にあります。

「企業の貧困化」というのは私の造語ですが、多くの中小零細企業では従業員の報酬をなかなか上げられないのです。その状況が最近ではより大きな企業にも波及しています。

 企業の貧困化といっても利益は上がっているのです。株主に対する利益は最優先して確保しなければいけないので利益は確保しなければなりません。しかし経済がうまくいっていないことから売り上げが増えません。円安で仕入れコストは年々上がります。その結果、企業としてのサイフの中身が貧しくなって従業員に十分な報酬が支払えなくなります。

 そういった黒字の貧困企業では過去に雇用した正社員が重荷になります。そこでふたつの現象が起きます。ひとつは正社員の残業をなくすこと、もうひとつは最低賃金近辺で働くことができる非正規労働者の仕事を増やすことです。

 前者の結果として、わが国では副業を容認する企業が増えました。後者はITや機械化投資を駆使することで、熟練を不要とする仕事が職場にどんどん増えていきました。どちらも派遣とバイト市場の拡大に寄与します。

 ただ、そこまでの状況ならタイミーの参入チャンスはまだ大きくなかったかもしれません。タイミーにとって追い風になったのは、少子高齢化の影響がいよいよ目に見えて大きくなってきたことと、コロナ禍で外国人労働者が激減したことでした。

 要するに極端な人手不足が日常化したことで、従来型の派遣やバイトでは仕事が埋まらなくなったのです。そこで企業は窮余の策としてバイトの仕事を細分化します。短時間、単発なら労働力を供給できるというスキマバイトニーズに労働の門戸を広げたのです。

 時を同じくして、供給能力が極端に不足した他業界ではその隙間を埋める新ビジネスが成功を始めます。ウーバーが出現したのはアメリカの大都市部で極端にタクシーの台数が足りなくなっていたからです。そして民泊のエアビーアンドビーが出現したのはホテルの供給不足が背景です。

 そして日本ではこのウーバーの出現が、タイミーの労働市場へのハードルを下げる2番目の重要な役割を果たします。