多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

わずか30秒で「ざわついた心」が穏やかになる超簡単な方法とは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

落ち着いた気持ちでなければ、相手は心を閉ざしてしまう

「よい傾聴」を行うためには、心を落ち着かせることが大切です。

 あなたが心穏やかで、ゆったりとした気持ちでいるかどうかを、相手は敏感に察知します。もしも、あなたがわずかでもイライラしていたり、心ここにあらずという状態であったりしたら、それだけで、相手は心を閉ざしてしまうでしょう。

 だから、職場の1on1などで相手と向き合う前に、あわただしい日常から気持ちを切り替える「グランディング(地面に足をつけて落ち着く)」をすることをおすすめします。

「呼吸」を整えれば、「心」も整う

 基本は「呼吸」です。「心が落ち着くか、ざわつくか」を決めるのは、脳幹からつながる不随意(自分でコントロールできない)な自律神経です。血圧や心拍数を上げ、能動的に動くための「交感神経優位」なのか、静かに落ち着くための「副交感神経優位」なのかを決めるは不随意、すなわち自分の意思では決められません。それは、ほぼ反射的に脳幹と自律神経の反応で決まってしまうのです。

 しかし、この自律神経の切り替えに対して唯一コントロール可能なのが「呼吸」なのです。

 浅い呼吸をしたり、息をすーっと吸い込んだりすると「交感神経優位」になります。逆に、ゆったりと深い呼吸で息を吐き切ると「副交感神経優位」になります。古来から、禅やヨガや瞑想、マインドフルネスなどがすべて呼吸のコントロールに頼っているのは、これが理由。「呼吸」を変えることで、体や意識を切り替えているのです。

「温泉呼吸法」がおすすめ

 そこで、私は「傾聴」を始める前に、この呼吸法を使って「副交感神経優位」に調整することにしています。基本はロングブレスで息を吐くこと。横隔膜を大きく動かして、肺が空っぽになるまで息をゆったりと吐き切り、その後、鼻からスッと短く息を吸い、またゆったりと吐くことを繰り返すのです。

 短時間で行うなら、「温泉呼吸法」が有効です。箱根あたりの温泉に浸かっているイメージをしながら、大きな声を出して「ふぅー!」「はぁ~~!」と息を三度吐く。これで、ざわついた心が静まり、「傾聴」を始める準備が整うのです。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。