JAXAが2021年度の宇宙飛行士選抜試験において、応募条件を「学歴不問」としたことが昨年来の話題となっている。条件の緩和が奏功し、試験の応募者数は過去最多の約4000人を突破。芸能人がSNS上で応募を報告するケースも見られた。だが、試験の具体的内容や、通過後の厳しい訓練の詳細を知る読者は少ないだろう。そこで今回は、JAXAが応募条件を緩和した理由と併せて、選抜試験の知られざる実態を解説する。(宇宙ライター 林 公代)
「アルテミス計画」始動で
日本人初の「月面歩行者」誕生なるか
人類が宇宙に出て約60年、これまで月面を歩いた宇宙飛行士は12人の米国人だけだ。だが、日本人が初めて月面を歩く日が遠からず実現するかもしれない。
というのも、日本は2019年に「月に人類を戻し、活動拠点を築く」などの目標を掲げた国際宇宙探査プロジェクト「アルテミス」への参画を決定した。この計画は米国が主導し、英国、イタリア、韓国などが名を連ねている。
岸田文雄首相は21年末、その実現に向けた施策を公表する場で「20年代後半をめどに、日本人による月面着陸の実現を図る」と発言したのだ。
日本人初となる“月面ウオーカー”の栄誉を手にするのは誰なのか――。それは、今まさしく進行中の「宇宙飛行士候補者選抜試験」で選ばれる人かもしれない。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は21年12月、宇宙飛行士候補者の募集を13年ぶりにスタートし、22年4月の締め切りまでに4127人の応募を集めた。この人数は、過去5回で最多だった前回(963人)の約4.3倍に上る。女性の割合も全体の22.3%に増えた(前回は12.9%)。
なぜこれほど増えたのか。その最大の理由は、今回の日本人宇宙飛行士候補者の応募資格が、世界で最も「ゆるい基準」になったことにあるだろう。
JAXAの公式サイトでは「宇宙飛行士候補者の募集要項」が公開されているが、21年度の応募資格を見た人はあっけに取られるかもしれない。そこにはたった2つの項目しかないからだ。