2回目のフライトの後に訪れた、苦しい10年間

 2回目のフライトでは、国際宇宙ステーション(ISS)に約半年間滞在し、さまざまなミッションを達成し、その時点での日本人宇宙飛行士の宇宙滞在期間の最長記録を更新しました。

 また、Twitter(現・X)を通じて情報を発信し、地球とリアルタイムでの交流をしたり、テレビのバラエティ番組に中継で出演したりもしました。

 自分が、そして人類が宇宙に行くことの意味を、僕なりにつかみたいという思いもありました。

 ところが、あまり知られていないことですが、2回目のフライトの後、僕は非常に大きな苦しみを抱えることになりました。

 苦しみの大きな原因の一つは、それまで寝ても覚めてもずっと頭の中にあった「宇宙でのミッション達成」というプレッシャー(重石〈おもし〉)が取れ、今後自分がどこへ向かっていけばいいのか、方向感を失ってしまったことにありました。

 また、ほかの宇宙飛行士が次々に脚光を浴び、自分が打ち立てた記録が更新されていく中で、「自分はもう必要とされていない」「自分には価値がない」と感じ、「あれだけ夢中になっていたことは一体何だったのか」「それに価値がないとすると、自分の存在意義は何なのか」という思いにさいなまれるようになり、何もやる気が起きなくなってしまったのです。

 苦しみは、40代半ばから50代半ばまで、約10年間続きました。寂寥(せきりょう)感や喪失感を抱えたこの10年間は、僕にとって「つらいことだらけの時代」でした。当時の僕は、おそらく宇宙一暗い宇宙飛行士だったのではないかと思います。