宇宙よりも遠い、自分の心の中への旅を通してわかったこと

 宇宙は、地上で生活しているだけではわからない、たくさんのことを教えてくれました。

「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」→宇宙飛行士・野口聡一さんの意外な答えとはどう生きるか つらかったときの話をしよう』(野口聡一 著、アスコム、税込1540円)

 地球と人間は一対一の存在であり、地球は一人ひとりの人間の命の集合体であること。

 宇宙空間には、重力も音も命の気配もなく、その中で地球だけが命を感じさせる存在であり、まぶしく輝いていること。

 僕たちが普段、「当たり前」「絶対」だと思っていることは、宇宙では決して当たり前でも絶対でもないこと。

 しかし一方で、宇宙に行くのはあくまでも「体験」にすぎず、宇宙に行ったからといって聖人君子になれるわけでもなければ、宇宙に何度も行っても見つからないもの、わからないこともあります。

 たとえば、「自分は何者なのか」「自分は何のために生きているのか」「自分はどこに向かって歩いていきたいのか」「後悔のない人生を送るためにはどうしたらいいのか」といった問いへの答えは、宇宙へ行っただけではわかりません。

 苦しんだ10年間、僕は縁あって大学の「当事者研究」に参加したり、論文や書籍の執筆をしたり、さまざまなことを行いながら、自分と必死で向き合い、過去2回の宇宙体験についても反芻(はんすう)しました。

 そんな、もしかしたら「宇宙よりも遠い」といえるかもしれない、自分の心の中への旅を通して、僕にはようやくわかったことがあります。

 それは、

「他者の価値観や評価を軸に、『自分はどういう人間なのか』というアイデンティティを築いたり、他者と自分を比べて一喜一憂したり、他者から与えられた目標ばかりを追いかけたりしているうちは、人は本当の意味で幸せにはなれない」「自分らしい、充足した人生を送るためには、自分としっかり向き合い、自分一人でアイデンティティを築き、どう生きるかの方向性や目標、果たすべきミッションを自分で決めなければならない」

「自分がどう生きれば幸せでいられるか、その答えは自分の中にあり、自分の足の向くほうへ歩いていけばいい」

 ということでした。