「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」という
質問に答えられなかった

 最初のフライトの直後は、「2週間、宇宙へ行って任務を果たしてきた」というだけで達観した人であるかのように扱われたり、「宇宙で何を見ましたか?」「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」といった質問をされたりすることへの違和感がありました。

 僕が初めて宇宙に行った2005年ごろは、「宇宙に行くというのはすごい体験であり、必ず人生観が変わるはずだ」という世間からの期待や先入観があり、「それほど大したことではない」「何も変わらなかった」と答えることが許されない空気がありました。

 そのため、人々の期待に応えられそうな答えを口にしながらも、「自分はそうした質問にきちんと答えきれているのだろうか」「自分の中に、それに答えられるだけの材料があるのだろうか」と常に思っていました。

「宇宙に行ったなんてすごいですね」といろいろな人から言われるたびに微妙な温度差を感じ、「みんなは何をもって『すごい』と言っているんだろう」という疑問を抱いていたのです。

 おそらく、1992年に日本人宇宙飛行士として初めてスペースシャトル計画に加わり、NASDAの宇宙飛行士として初めて宇宙へ飛び立った毛利衛さんや、1997年に日本人宇宙飛行士として初めて船外活動を行った土井隆雄さんの時代には、そうした空気はもっと強かったはずです。

 そういった世間からの期待に応えるかたちで、毛利さんは二度の宇宙飛行を通して育んだものの見方や考え方を「ユニバソロジ」という形で提唱しています。

 また、土井さんはその後、京都大学特定教授として、人間が宇宙で活動するために直接使える新しい学問である「有人宇宙学」を作ろうと動いています。

 先輩方が、宇宙へ行く意味を再定義する活動をされている中、僕は「なぜ、人間が宇宙に行くのか」という問いに対する自分なりの答えをなかなか見つけることができず、それを「自分のある種の未熟さのせいなのではないか」と考え、ひけめを感じていました。