コレステロール値が
年を取ると高くなるワケ

 コレステロールの役割はこれだけではありません。人体は60兆の細胞でできていますが、その1つ1つは常時、傷ついたり、死滅したりしています。その際に、細胞を修復したり再生したりするのにも、コレステロールが使われるのです。

 当然ですが、年を取るほど体は劣化します。皮膚や筋肉の劣えは自覚しやすいですよね。でも、見えない血管や内臓、脳、骨なども劣化しているのです。

 つまり、細胞が古くなっているということです。修復や再生の機会は、年を取るとともにどんどん増えていきます。

 体内にコレステロールが十分にあれば、どんどん投入して、細胞を修復したり、作り直したりすることができます。ところが、コレステロールが不足していると、細胞は劣化の一途を辿ってしまうのです。

 人間の体はとてもよくできていて、一定の状態を維持しようとします。細胞が傷ついたら修復しようとするし、修復にコレステロールが大量に使われたら、補充するためにコレステロールを大量に生成しようとします。もちろんこれは、自覚することなく体内で自然に行われているのですが、この仕組みを「ホメオスタシス」と言います。日本語では「恒常性」です。

 年を取るとコレステロール値が上がるのは、こうした仕組みがあるためです。常に細胞の修復や再生ができるよう、コレステロール値を高めているわけです。そうやって、老化する体を守り、維持しようとしているのです。

 中高年になると、コレステロール値が高まってくるのは、こうした理由もあってのことです。つまり、人体を維持するための自然な反応というわけです。

書影『コレステロールは下げるな』(幻冬舎)『コレステロールは下げるな』(幻冬舎)
和田秀樹 著

 もちろん、食事によって摂り過ぎていたら、多少はコレステロール値が高くなることもあるでしょう。しかし、ほとんどの場合は、高齢化に伴う自然な“生理現象”と言えます。

「高齢者はコレステロールを下げてはいけない」と私が言うのはこのためです。せっかく人体に備わった素晴らしいシステムが働いて、コレステロールを増やしてくれているのに、あろうことか無理やり下げてしまう――。

 知らぬとは言え、いかに愚かな思いこみかわかるでしょう。健康診断のコレステロール値が少しくらい高くても、心配することはありません。それよりも、無理に下げるほうが、よっぽど心配なのです。