動画の倍速視聴は危険?「脳にとってかなりの負荷」精神科医が警鐘を鳴らすワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

精神科医の伊藤拓氏は、タイムパフォーマンス(タイパ)重視の動画視聴は危険であると説く。情報のスピードに処理が追いつかなくなった脳は、いわばサーバーダウン寸前の状態であり、抑うつ状態を引き起こしかねないというのだ。のべ10万人以上を診てきた精神科医が、情報過多の現代に警鐘を鳴らす。※本稿は、伊藤拓氏『精神科医だけが知っているネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を抜粋・編集したものです。

タイパ重視の動画視聴が
脳を疲れさせている

 スマートフォンの使い道で多いのは、動画視聴、インターネット、SNSの3つです。

 利用するスマートフォン端末の性能はどんどん良くなっていますし、データの通信速度も速くなっています。今はどこでもストレスなくスマートフォンを利用できる環境が整っていますよね。

 ここでは動画視聴について考えていきたいと思います。

 YouTubeやドラマ、映画など、インターネットで動画を視聴する人は多いですよね。しかし、忙しい日常で、動画をゆっくり見ている余裕がないという人も少なくありません。今や20代、30代の2人に1人が動画を倍速視聴したことがあり、4人に1人が1.5倍以上の速さで視聴しているそうです。たくさんの動画コンテンツがあふれていて、話題の映画やドラマをチェックしておかないと周囲の話題に乗り遅れてしまう。でも、自分の時間は他のことにも有効に使いたい。そんなタイムパフォーマンスを重視する姿勢が動画視聴にも表れていると感じます。

 ただ、動画の倍速視聴は、脳にとってはかなりの負荷になっています。というのも、脳には様々な部位があり、情報を見たり、聞いたりする役割と、それを理解して様々な感情をコントロールする役割は違う部位が担っているため、情報のスピードが速すぎると脳の処理が追いつかなくなってしまうのです。

 なんとか処理しようと働いていると、情報の取りこぼしも起こり、それが集中力や推察力の低下となって表れてきます。ストレス解消のために大好きなドラマやお笑いを視聴しているはずなのに、登場人物に感情移入ができない、番組の内容に没頭できずにただ「見ているだけ」という状況になっているという方は、脳が疲れているのかもしれません。

図表:脳にはエリアごとに役割がある同書より転載 拡大画像表示

 ストレス解消で動画を見る時は、ゆっくりとそれを楽しむくらいの心の余裕が欲しいものです。そして、個人的には、少し前の映画を見ることをおすすめします。

 なぜなら今の作品は、倍速視聴でも楽しめることを念頭に作られているものが多いように感じるからです。それに比べると、以前の作品は倍速視聴されることなどまったく想定されていません。だからこそ、ストーリーの行間にまで丁寧に展開が積み上げられていると思うのです。

 作品に浸り、感動したり共感したりして、思い切り笑ったり涙を流したりしてみてください。そうすることで、副交感神経が活発になり、脳も癒されるのです。