このため、アメリカは中国への半導体輸出を止める一方で、自国へのTSMC工場の誘致を急ピッチで進めています。アリゾナ州で5兆円規模の大規模プロジェクトが進行中であり、高いレベルの技術移転も求めていると見られます。

 現在、半導体の製造拠点が台湾からアメリカや日本など他の国に移転しているのは、米中対立が原因であり、実態はほぼアメリカの都合でもあります。

 しかし、アメリカ国内に製造工場ができれば、台湾からするとアメリカはもはや命懸けで自分たちを守ってくれないのでは、との不安が高まります。実際、台北市内で人々に話を聞くと、今のアメリカの動きは「半導体技術を台湾から奪おうとしている」といった声も聞かれます。

 かつて台湾には「シリコンシールド」という考え方がありました。「中国が台湾の半導体に依存しているので、中国が台湾を軍事侵攻することはない」、つまり中国の攻撃から「守られる」というものです。

 しかし、最近このシリコンシールド=盾はもはや機能しないと見なされています。中国の台湾統一の意思は強く、まだまだTSMCの技術には遠く及ばないとは言え、中国は国内で独自の技術開発を進めているからです。盾が機能しないとなれば、現実問題として台湾は軍事的な防衛能力をより強化せざるを得ません。

 そして当然のことながら、台湾としては自分たちの命運を握る半導体産業の保護・発展が不可欠です。世界で最もすぐれた半導体生産能力にも死角がないわけではありません。台湾でも急速な少子高齢化が進んでおり、その影響で長期的な技術者不足に直面する懸念が出ています。

 台湾当局も人材育成の必要性は認識しており、半導体の研究開発センターを新たに複数開設し、半導体など重点分野関連の学部生定員枠を10%、修士課程や博士課程の定員枠を15%増やすなどの対策を取っています。最終的には毎年1万人の半導体関連人材を育成する方針です。

 同時に政府は安全保障の観点から、中国への過度な経済依存を減らすため、民進党政権のもと産業の台湾回帰とASEAN地域への移転を促進してきました。具体的には中国への投資を台湾に回帰させる場合の支援枠組みを整えたり、あるいはASEAN諸国に投資先を拡大する動きも後押ししています。