とある台湾の大企業トップに台北でインタビューした際、今後の中国との関係についてどう考えるか質問しました。質問自体はありふれたものであり、トップの回答も「平和が重要だ」という趣旨の全く穏当なものでした。

 しかしその後、会社の広報担当者から「今の質問と回答は放送では使わないでくれ」と言われ、議論になったこともありました。

 中国は台湾海峡の向こう側から、こうした揺れ動く台湾の民意をあの手この手で動かそうと常に動いています。

 頼清徳総統が就任した後の5月下旬、台湾の芸能人が相次いで「私は中国人」などと発言し、SNSの投稿でも、中国による台湾統一を事実上、支持する出来事がありました。

 中国共産党のメディアである中国中央テレビが中国版SNSの微博に「台湾の独立は死の道」などと投稿し、これを40人以上の台湾のミュージシャンや俳優などがシェアしています。台湾の若者の間では批判が殺到し、ネットは「炎上」する事態となりました。台湾の芸能人に対する中国共産党の圧力があったと見られます。

 先程の台湾企業の例と同じく、台湾の芸能人もファンの多くを大陸中国に持ち、収入の多くを中国に依存しています。このため、中国から圧力を受ければそれに従わざるを得ない状態なのです。台湾当局もこうした状況を認識しており、中国の圧力について「中国共産党に対する台湾社会の反感を高めるだけだ」と強く反発しています。

 2024年の総統選挙でも、中国共産党のサイバー部隊がSNSなどの情報発信を通じて選挙に介入し、国民党を支援する動きを見せたとされます。過去には中国の地方政府が台湾の農家から農作物を大量に買い付けて、大陸中国の影響力の強さを台湾の有権者に知らしめようとしたこともあります。

 今後、中国はこうしたサイバー戦、情報戦、認知戦をさらに強めると見られます。ただ台湾の民主主義は人々が長年の苦闘を経て勝ち取ったものです。中国による水面下の攻勢で簡単に揺らぐことはないと期待したいところです。