世界最大の半導体受託製造企業「TSMC」を擁する台湾では、中国の大手通信機器メーカー「ファーウェイ」への半導体供給が、軍事侵攻に対する盾の役割を果たしてきた。また、TSMCは「アップル」への半導体供給元でもあるため、有事の際はアメリカが守ってくれるはずだ。ところが、三者の力関係が変わりつつある。果たして台湾は、中国の圧力に耐えきれるのか?※本稿は、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のメインキャスター、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。
中国ファーウェイを切ったTSMCに
アメリカ企業からの注文が殺到
台湾経済は地理的に近い中国との結びつきも非常に強く、台湾の輸出の4割が中国向けで、輸入の2割は中国からやって来ます。そして、中国にとっても台湾は最大の半導体供給元でした。他国と同じようにTSMCは中国に対しても半導体を供給していたからです。
特に中国のファーウェイとその子会社で、世界トップクラスの半導体開発・設計技術を保有していたとされるハイシリコンも、半導体の製造はTSMCに委託していました。
軍事面で中国と競争するアメリカとしては、中国軍の技術的進化を何とか遅らせる必要があり、そのためには中国への半導体の供給を止める必要がありました。
ファーウェイをターゲットにした対中半導体輸出規制は2019年に始まりますが、2022年、アメリカはTSMCと中国の関係を本格的に断ち切ろうと動きます。対中半導体輸出規制の大幅な強化です。結果としてTSMCのファーウェイ向け出荷は停止しました。
TSMCはアメリカ製の製造装置と設計ソフトを使用しています。このためアメリカの技術を含む半導体製品のファーウェイへの供給はアメリカ政府による事前の輸出許可が必要になり、この許可が下りなくなったのです。TSMCにとってファーウェイはアップルに次ぐ第2位の大口顧客で、経営に大打撃になるかと思われました。
しかし、そうはなりませんでした。世界最強のTSMCの元には、すぐにエヌビディアやクアルコム、インテルなど、アメリカの大手ハイテク企業からの注文が殺到し、生産ラインが埋まったからです。
半導体の製造拠点を
分散させたいアメリカの事情
アメリカとしては、もし中国が台湾に軍事侵攻して新竹市のTSMC工場が奪われれば、台湾からの半導体供給がストップして多大な打撃を受けることへの懸念もあります。
だからこそ台湾を防衛する重要性もあるわけですが、一方で台湾が防衛できなくなる事態に備える必要もあります。