長期政権を嫌う傾向の台湾で
複雑に揺れ動く民意

 また、長く国民党の独裁政権に苦しんだ台湾の人々は、長期政権を嫌う傾向があるとも言われます。特定の勢力が長く権力の座に居座れば、強権的になり腐敗すると知っているのです。その意味では、蔡英文総統のもと8年間政権を担当した民進党を交代させる可能性もありました。

 しかし結果として、民進党に次の4年間も引き続き政権を委ねることを決めたのは「異例」の出来事だったと言えるでしょう。一方で、日本の国会にあたる立法院は野党の国民党に第一党の地位を与えることで、有権者は“バランス”をとったという解釈もできます。

 さらに頼総統の就任直後、立法院の権限を強化する法案が可決され、新政権には打撃となりました。野党が攻勢を強めた結果です。

 今の台湾では給与所得者の68%が平均収入よりも低い水準で暮らしているとされ、特に若者の経済的な不満が高まっています。TSMCに代表される半導体などのハイテク産業は好調な一方で、人々の間で経済的な格差が広がっていて、新政権にとっては大きな課題となっています。

 なお、民進党と国民党のどちらにも投票したくない有権者の多くは第三勢力の民衆党に投票しました。民衆党はかつて民進党の友好党でしたが、中国に融和的な姿勢も見せており、海外から見れば主張が分かりにくいのも事実です。いずれにせよ、その民衆党も(1)、(2)のロジックから完全に逃れることはできません。

 このように複雑に揺れ動く台湾の民意ですが、実際に台北の街中で人々に話を聞くと、中国の侵略の恐怖を率直に語る人もいれば、景気や日々の暮らしが大事だと語る人もいて様々です。中国をめぐる政治的な議論は友人の間でも喧嘩や分断を引き起こすこともあります。

新総統就任後に台湾の芸能人たちが
「私は中国人」などと発言した事情

 また、企業経営者の反応は非常にデリケートです。会社が大きな売上を上げるためには中国大陸の顧客や消費者が重要で、当然、中国共産党の目が気になるからです。

 一方で中国に批判的な台湾の顧客や消費者への配慮も必要です。このため大企業であるほど、つまり事業が中国市場に依存している企業経営者ほど発言は慎重になります。