というのも、僕はロケでカメラの前に立つ時、なるべく、見晴らしがよい場所、いわゆる“抜けの良い画”をバックにしてもらうよう、ディレクターやカメラマンにお願いしていました。その方が、画面全体が映えて、視聴者の関心を惹けると思っていたから。1枚の風景画の中に自分がいるイメージです。まぁ、せめて背景だけは……という、自信の無さもあったのですが(笑)。

受け手の心に残り続ける
欽ちゃんの粋な褒め言葉

“前に出てナンボ”のタレントの世界では“自分がどう映るか”にこだわる人は多くても、“背景”にまでこだわる人は、なかなかいなかった。フレーム込みで自分を見せて画面全体を明るく、華やかに見せる方法は、僕が密かに編み出したテクニックだったのです。総合演出として番組全体を見ることの多い萩本さんは、このテクニックを一発で見抜いた。

 ただ、そこで「君は背景にこだわってるね」と言ってしまうと、少しいやらしい……。だから「富士山よりも君を見る」という独特の言い回しをして、ちょっとクスッとさせつつ、僕のこだわりを、しっかり褒めてくださったんだと思っています。

 以来、『DAISUKI!』でも『ウチくる!?』でも、今、BS11で放送している『中山秀征の楽しく1万歩!街道びより』でも、ロケ番組に出演する時は、いつも萩本さんの言葉を胸に、自信を持って“抜けの良い景色”を背負っています。

 江戸っ子の萩本さんならではの粋な褒め言葉、まさに金言、ならぬ「欽言」。あの時、トランペットを吹いたのは無駄じゃなかった……!(笑)

書影『いばらない生き方』(新潮社)『いばらない生き方』(新潮社)
中山秀征 著

 2度しか褒められたことのない見栄晴が、それをずっと忘れずにいるように、素敵な「褒め言葉」は言われた側の心にいつまでも残り、自信の糧にもなります。僕も、そんな「欽言」を後輩に贈れる人でありたいといつも思っています。

 ちなみに、見栄晴が萩本さんから貰ったもう1つの褒め言葉は……。

「お前の凄いところは、友達を作れるところ。俺はできないんだよ。だから見栄晴は芸がなくても芸能界で生きていけるよ」

 やっぱり、大将の褒め方は粋です。本当にその通り生きている見栄晴も凄いけど(笑)。