ここも、「廊下の奥」といった意味合いに取るのが言葉の解釈としては一番すなおです。それをなぜ、たたかれるだろうとわかっていてなお、「ホールの反対側」としたのでしょうか。

 実はここ、ホテルのウェブサイトにあった見取り図を見ながら訳しました。本文中に出ていたホテル名を手がかりに探し出したのです。研修会が開かれた当時から増改築があった可能性は低いと思います。

見取り図同書より転載 拡大画像表示

原文と見取り図を見比べながら
アトキンソンの足取りを推測する

 研修会直前、アトキンソンはジョブズの部屋に行って不満をぶつけました。部屋があるのは、左下のブロックか右下のブロック(○)かでしょう。ジョブズは話を打ち切り、アトキンソンの脇をすり抜けて研修会へと向かいます。

 このあとに問題の文が登場します。研修会会場でジョブズが演説を始め、大歓声が上がるのを聞いてアトキンソンが諦めるシーンです。原文は、次のようになっています。

Atkinson,from down the hall,heard the loud cheer,and with a sigh joined the group.

 研修会の部屋は、右上のPacific Roomでしょう。居室が左下でも右下でも、研修会の部屋へ行くなら玄関ホールを通ります。また、玄関ホールから研修会の部屋までの途中にも、小さなホール(★)のようになっているところがあります。

 さて、アトキンソンはどこにいたのでしょうか。アトキンソンは、研修会会場へ向かうジョブズの背中を追ったけど、どこかで足が止まり、会場には入らなかった。どこで足が止まったのでしょう。ここからは想像です。Pacific Roomの入り口付近ということはまずありません。“down the hall”とdownがありますから、それなりに離れていたはずです。真ん中あたりの小さなホールのようなあたりか、それとも、玄関ホールから廊下に消えていくジョブズの背中を見送り、いまだ玄関ホール部分にいるのか。映像で見せるなら、Pacific Roomの入り口が見えないくらいのところに立つアトキンソンを映し、歓声が聞こえたらためいきをついて歩き出す、といった感じでしょうか。