以前であれば、政策保有株が安定株主として機能していたわけだが、2014年から始まったコーポレートガバナンス改革の中で、政策保有株の存在が日本企業の低収益性を放置してきた元凶と断定され、近年では急速に売却が進んでいる。かつて導入が進んだ買収防衛策も、もはや機関投資家の賛同を得られる可能性は低く、導入や更新は難しい。攻める側は攻めやすくなっているのに対して、守る側は選択肢が限られてきたというのが実情だ。

 一方で、株主還元のような短期的株価引き上げ策ではなく、事業ポートフォリオの入れ替えなど企業戦略の転換に関わる本質的な提案をするアクティビストや、より長期の視点から企業価値を上げる提言をしてくるエンゲージメント投資家も登場してきた。日本では「物言う投資家」は「悪」と考える風潮があるが、「物を言わない投資家」が多かったのがむしろ問題だったのだ。

「物言う投資家」の存在は、企業経営の観点から見てもポジティブと捉えるべきだ。IRでの投資家の意見は経営の参考にすべきだし、「物言う投資家」の優れた提案についても内容を真摯に検討し、「コストがゼロのコンサルティング」と位置づけて提案を実行することがあってもいい。低収益事業の切り離しなどは、会社内の意見統一はそう簡単にはできないこともあるので、投資家の声を「黒船」として活用して戦略転換を遂行していく、というようなしたたかさも現代の経営者には求められる。

経済産業省のお墨付き
「同意なき買収」時代の到来

 アクティビストのターゲットだけではなく、PBRの低い企業は「同意なき買収」のリスクにも晒されるようになってきている。「同意なき買収」は、かつては「敵対的買収」と呼ばれ、多くの日本企業から「お行儀が悪い」と敬遠されていたが、ここ最近は世間やメディアの同意なき買収に対する見方も昔ほど否定的ではなくなっており、件数も増えてきた。

 昨年8月31日に経済産業省が「企業買収における行動指針」を策定し、上場会社の経営支配権の獲得に関わるM&Aのあるべき姿とルールを定めている。この指針の中で「望ましい買収」を「企業価値の向上と株主利益の確保の双方に資する買収」と定義づけ、「資本効率性の低い企業の多い日本の資本市場における健全な新陳代謝にも資する」と日本経済全体にとって好ましいと断じている。つまり「指針」に沿っていれば「同意なき買収」でも大儀があるとお墨付きを与えたのである。