ニデックのTAKISAWA買収に見る
「M&A新時代」の幕開け

 この「指針(案)」が発表された直後の7月13日に、ニデックが工作機械メーカーのTAKISAWAに対して同意なき買収を発表している。その際「企業価値の最大化に向けた経営統合に関する意向表明書」を公開しているが、「指針」で示されたルールと照らし合わせながら、買収の正当性、企業価値の観点からニデックによる買収がいかに望ましいか、などを詳細に説明している。

 また株主だけでなく、従業員、地域社会、取引先その他のステークホルダーにとってのメリットまでも訴えている。「意向表明書」で買収の正当性を宣言して、相手が「ノー」と言えないようにして買収を仕掛けているのだが、いわば外堀だけでなく、内堀までも埋めて城攻めをしたようなものである。

 もともと2022年1月にニデックはTAKISAWAに第三者割当増資による資本業務提携を提案しているのだが、その際にはTAKISAWA側に拒絶されている。今回は「指針(案)」の公表を受けて、部分出資ではなく100%の買収を仕掛けたのだ。TAKISAWA側はホワイトナイトも探したようだが、結局9月13日にはニデックのTOBへの賛同表明をしており、「敵対的」なTOBが「友好的」なTOBに転換している。TAKISAWAの原田社長も「経済産業省の指針に沿って対応したら、賛同するしか答えはなかった」とコメントしており、本件は「指針」が成功させた同意なき買収とも言える。

 TOB価格は一株2600円と、TOB発表前の株価に100%近いプレミアムを乗せていて、一見高い買収価格に見えるのだが、実はTAKISAWAのTOB発表前の株価はPBRが0.5倍以下と低迷しており、2600円の買収価格も一株当たり純資産を下回っていたというのが実情だ。つまりPBRが低かったのが、同意なき買収を呼び込む結果となったのである。

「同意なき買収」はこれだけで終わらなかった。2023年12月8日には第一生命ホールディングスが、福利厚生代行のベネフィットワンに対して一株1800円でTOBをかけると発表している。それ以前の11月14日には、エムスリーが1600円で「友好的」TOBを発表しているのにもかかわらず、第一生命が「同意なき」TOBを仕掛けたのだ。その後ベネワンとの価格交渉を踏まえ、取締役会の賛同表明も得て、2173円でTOBをすることで最終決着した。

 第一生命がこのような動きに出てきたのも「指針」の後押しがあったようだ。「指針」に沿っていれば後から買収合戦に参戦する「後出しジャンケン」であっても、「濫用的買収」でない限り、買収価格が高い方が勝つ株主価値優先のM&Aの時代に突入したと言える。