銀行の同意なき買収に対する姿勢も変わってきている。例えば、今年の3月21日に発表されたAZ-Com丸和ホールディングスによるC&FロジHDへの同意なきTOBのFAに、みずほ証券が就任したのもその査証だ。メガバンク3行は企業との取引関係を考慮して同意なき買収の支援については慎重に対応してきたが、みずほグループの方針転換で様相が大きく変わってくると思われる。

 政策保有株という安定株主も急速に消滅しつつある中、銀行も守ってくれない(むしろ攻める側に付く可能性もある)、マスコミももはや否定的に報道しない、政府まで経済の活性化のためと推奨している、という環境下では、同意なき買収は株価の低迷しているどの上場企業にとっても、現実性のあるリスクになってきたと言える。TOBが成功するには株価に相当なプレミアム(30~50%がコントロールプレミアムの標準的水準と言われている)を乗せないと株主は応募してくれない。したがって、企業価値を最大化するような経営施策をしっかりと実行し、適正株価を維持していれば、同意なき買収のターゲットにもなりにくいのである。

リスクをとることこそ
経営者の本来の仕事

 バブル崩壊以降、経済成長の減速と経営環境の激変の中で、多くの日本企業が積極的な投資をせずに行ってきたのが、コスト削減による利益の確保であった。デジタル投資や人材育成などのコスト削減が行き過ぎて、競争力まで削がれてしまった企業も多々ある。縮小均衡による利益確保では当然ながら成長は犠牲になるわけで、その結末が長年の日本の株価の低迷だ。

 企業経営の本質はリスクテーキングである。ノーリスクはノーリターンで、リスクを取らないのが企業にとっての最大のリスクだ。イノベーションを起こし、新しい事業を創出し、成長しなくなった事業は切り捨て、ビジネスポートフォリオを刷新する。それが収益性を上げ、成長を牽引する上では必須となり、その結果として、従業員の給料も上がり、株主も満足し、会社は繁栄し、ひいては経済全体を成長させることに資するのだ。

 PBR1倍割れ問題、アクティビストの台頭、「同意なき買収」のリスクのいずれも、唯一の永続的対処策は、積極的なリスクテーキングや果断な経営戦略の転換による、収益性と成長性の向上策である。

(早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター研究院 教授 伊藤友則)