「うちの会社に潜入しているんですか?」取材拒否から一転、幹部インタビューに応じた企業の実名写真はイメージです Photo:PIXTA

ユニクロ、黎明期のアマゾンからトランプ信者の団体まで――。組織に潜入し実情を掘り起こしてきた「潜入記者・横田増生」がアマゾンの次に潜入取材を行ったのは、ヤマト運輸だった。宅急便の巨大仕分け拠点に潜り込み、配送するトラックに同乗して聞こえてきたのは、ネット通販の荷物が激増するのに対応しきれずに、悲鳴を上げている現場の声。崩壊しかかっていた宅配業界の労働問題の闇とは…。
※本稿は、横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)の一部を抜粋し再編集したものです。

ヤマト運輸は当初
私の取材を徹底的に避けようとした

 アマゾンの次に潜入取材を行ったのは、2015年に出版した『仁義なき宅配』を書いたときだ。

 世界的に見ても高水準のサービスレベルを誇る日本の宅配業界における苛烈な競争と、そこで疲弊していく労働者について描く。当初は正面玄関からの正攻法を考えていた。

 宅配業界のトップであるヤマト運輸の広報部に取材を申し込み、企業のトップやドライバーを含む労働者にも話を聞いて、本を書こうと思った。はじめは潜入する気はなかったのだ。

 ところが、ヤマト運輸は当初、私の取材を徹底的に避けようとした。

 このヤマト運輸とのやり取りは、企業がどういう姿勢で取材を受け、また拒絶しているのかを知ることができる挿話となるだろう。

 私がヤマト運輸に取材を申し込みに行ったとき、同社の広報担当者は私にこう言った。

「クール問題のみそぎが済むまで取材は受けられない。あと1年ぐらいは無理だろう」

 クール問題とは、私が取材を始める前年の13年、稼ぎ頭であるクール宅急便で、ずさんな温度管理をしていたことが表面化して、社長が陳謝し、全社を挙げて改善する再発防止策を打ち出すことに追い込まれた不祥事を指す。そのクール問題の解決の道筋がつくまで取材を1年間待ってほしい、というのだ。

 一見もっともらしく聞こえる話だが、果たして本当だろうか。