物流大戦#11Photo:PIXTA

われわれ消費者は、ネット通販で「送料無料」や「即日配送」を当たり前のように選ぶ。しかし、消費者にとって便利なサービスは、ドライバーの長時間労働や低賃金の上に成り立っている負の側面もある。特集『物流大戦』の#11では、物流2024年問題の根本要因を振り返り、これまで当たり前だった物流は今後も持続可能なのかについて徹底検証する。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

今年末に輸送力不足が表面化する!?
予断を許さない「物流危機」のリスク

 2024年度に輸送力不足が露呈し、日本に物流危機が訪れるかもしれない――。

 物流の「2024年問題」としてそう警告されてきた理由は、24年4月以降、トラック運転手の労働時間が強制的に短縮されるからだ。

 長時間労働になりやすいドライバーなどの業種は、24年4月から時間外労働の上限が年間960時間までとなった。さらに、トラック運転手の1年間の拘束時間は3516時間から原則3300時間へと短縮された(「トラック運転者の改善基準告示」)。

 労働時間短縮による影響を試算し、国に輸送力不足の問題を提起してきたのが、NIPPON EXPRESSホールディングスの子会社で物流コンサルティングなどを手掛けるNX総合研究所(NX総研)だ。

 NX総研は、輸送条件やトラック運転手の労働条件が全く変わらなければ、日本の輸送能力は24年度に14.2%、30年度に34.1%不足すると試算する。国もこの試算を基に、輸送力不足に陥らないよう対策を進めてきた。

 24年4月から約半年が経過し、今のところ目立った混乱は起きていない。だが、NX総研の金澤匡晃ゼネラルマネージャーは「一般的な業種とは異なる36協定のルールを考えると、輸送力不足の問題は依然として予断を許さない状況だ」と指摘する。どういうことか。

 一般的な企業の場合、年間の上限だけでなく、時間外労働が月45時間を超えられるのは6カ月まで、といった別の上限規制がある。

 一方、自動車運転業務などの場合、この規制は適用されない。6カ月単位の上限規制を気にする必要がないため、24年度前半に年間960時間ペースを優に上回っている業者の存在が否定できないということだ。「中小零細の多い運輸業界では、毎日の業務に追われて問題が切迫するまで対応できない事業者も多い。25年3月の時点で年間960時間に収まれば問題ないと様子を見ている企業も多いのではないか」(金澤氏)。

 金澤氏は、今後大幅な労働時間短縮が必要になれば「24年12月以降の繁忙期から輸送力不足の問題が表面化する可能性もある」と指摘する。

 では、トラック運転手不足の問題は、荷主企業や消費者に具体的にどのような影響を及ぼすのか――。

 次ページでは、「即日配送」「送料無料」など、われわれ消費者が当たり前のように享受しているサービスに焦点を絞る。政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の委員を務める首藤若菜・立教大学教授の助言を基に、物流の持続可能性を徹底検証する。