おそらく、職員が社員に道端で声をかけたのは、偶然ではないだろう。カリニンの所属するラインX内で、5G基地局関連情報の収集に適した関連企業を精査し、その中の1つとしてソフトバンク社をターゲットに選定。

 当該情報にアクセスできる社員を複数人選定した上で、名刺交換などのアプローチを複数回にわたって行ったと推察される。

 当該社員には、ロシア人を警戒しない(アプローチしやすい)などの要素が見られたという。

 そこで、ラインXは当該社員に狙いを定め、本格的なアプローチを開始し、経済的に支援し、さらには彼の承認欲求を満たすことで、違法行為を行わせるまでの強い依存関係を構築したと言えよう。

 社員は被告人質問の中で、カリニンと気が合い、彼の役に立ちたかったと供述している。

ロシアスパイと過ごす時間は
家族といるときよりも心地よい

 ロシアの機関員は、対象者の心を掴む方法について、どのような手法を使うのであろうか。一般的に、スパイがエージェントを獲得するためには、金や性癖、名誉や信用、思想信条などにアプローチすると言われている。これらはたしかに重要な要素である。