その他、スポーツ界やエネルギー関連の会合など多岐にわたって、過去にロシア機関員からアプローチがあったという言質を関係者から得ており、ロシア諜報活動の活動範囲の広さを改めて認識した。

 このように日本においては、ロシア機関員によって、多岐にわたって工作活動が展開されているのが実態だ。

巧妙に承認欲求の罠につけ込む
ロシア機関員の秀逸なリクルート術

 ロシア機関員は、前述のようなエージェント候補として特定の日本人に狙いを定めたアプローチもあれば、ターゲット企業先でランダムに社員に道を聞くようなリクルート活動も定常的に行っている。

 いずれにしても、ロシア機関員のエージェントとして取り込む技術は秀逸である。次にその手口を紹介することにしよう。

 元内閣情報官の北村滋氏の『外事警察秘録』によれば、2005年に立件されたサベリエフ事件を基にリクルートの手口を以下のように示している。

 SVRスパイは、エージェントの獲得初期には、エージェント候補に対し入手が容易な公開情報を求め、対象者に安心感を抱かせる。次に非公開情報を要求し、少額の金品を与える。

 このように“私(日本人)は、相手(ロシア機関員)にとって不可欠な存在だ”という「承認欲求の罠」に陥れ、機関員との接触を重ねるごとに機密資料と引き換えに高額の報酬を受け取るようになる。そして、日本人は、カネと承認欲求の充足を通じてSVR機関員に経済的・精神的に依存するようになる。(編集部注/SVRは、ロシア対外情報庁。旧KGB第一総局の後継機関)