書影『勇気論』(光文社)『勇気論』(光文社)
内田 樹 著

 読み比べてみると孔子の「大勇」が他の2人の「動かない心」とずいぶん手触りの違うものであることがわかります。それは、「自分に理がないと思ったら、相手がぼろをまとった賤民でも私はおそれる」と書いてあることです。

 孟子がその前に引いた2人の例は「相手に勝つためにはどうすればいいのか」という問題意識に基づいて「勇気」を論じていたのに対して、孔子は場合によっては「相手に敗ける」ことも勇気の発現の1つのあり方として認めています。ここにどうやら決定的な違いがありそうです。

 自分の側に理がなくて、それでも無理押しして勝つというのは「勇気」の現れではない。孔子はそう言います。自分の側に理がない時には、相手が弱者なので無理押しできる場合でも、「ごめんなさい」と身を退くのが「勇気」の現れである、と。