ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで――。組織に潜入し実情を掘り起こしてきた「潜入記者」が、その取材方法を明かす。横田増生がユニクロを例にして「検証なき経済報道は害悪」と主張するわけとは?
※本稿は、横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)の一部を抜粋し再編集したものです。
ユニクロ店長の平均年収は1000万円?
柳井正に直接聞くと間違いを認めた
潜入取材以外でも、ファクトチェックが必要な場面は多々ある。
その一例が、ユニクロの店長の給与についてだ。
柳井正が書いた『一勝九敗』にはこんな一節が出てくる。
「当社の店長とは、知識労働者だと考えている。店長を『店舗という場所で、自分たちの力で付加価値をつけていく人』と定義すれば、3000万円の年収は可能だ。平均でも、1000万円以上取ることはできると思う」
これを読めば、ユニクロの店長の年収は平均でも1000万円以上あり、最高では3000万円もあり得ることになる。
しかし、私が『ユニクロ帝国の光と影』を書くときに複数の店長から聞いた話では、せいぜい500万円前後の範囲で、柳井の主張する金額とは大きな開きがあった。店長の年収が3000万円か、1000万円以上なのか、それとも500万円前後なのかで、働く側のモチベーションが全然違ってくる。
先に書いた通り、疑問を抱いたら、相手に直接聞くのが一番いい。
たった一回だけかなった柳井とのインタビューで尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「1000万円以上というのは、われわれの職階でいうスーパースター店長とか、スーパー店長という方になるんじゃないかと思います。それを乗り越えると、フランチャイズのオーナーってことになります。現在では、スーパースター店長が10名ぐらいで、スーパー店長が60~70人ぐらいです」
当時、ユニクロには700人前後の店長がいた。その中の高給を食むのはごく一握りであり、店長の平均給与が1000万円以上との記述は間違いである、と認めたわけだ。
その後、間違った記述は修正されたのか。
私が取材の時に持っていたのが、新潮文庫の2009年発行の9刷りだった。ロングセラーである『一勝九敗』は刷りを重ね、最新の文庫本は23年の26刷り。
出版物は、刷り増しするときに内容を修正することができる。しかし、店長は「平均でも、1000万円以上取ることはできる」という記述は修正されることなく現在に至っている。