「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学を分かりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「目的論」「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
本連載では、『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられたさまざまな「人生の悩み」にアドラー心理学流に回答していきます。
今回は、初めての子育てに悩む方からのご相談。「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破するアドラー心理学を踏まえ、岸見氏と古賀氏が熱く優しく回答します。

子どもへの敬意が大切Photo: Adobe Stock

子育てで大切なのは「子どもへの敬意」

【質問】もうすぐ初めての子どもが生まれる予定ですが、子育てに不安を感じています。子育てをする上で大切にすべきことや、やったほうがいいこと、心構えなどを、アドラー心理学に基づいて教えていただけますか?(20代・女性)

岸見一郎:子どもを育てることは誰にとっても不安だと思います。初めての子であればなおさらでしょう。でも、まさに案ずるより産むが易しで、実はそんなに怖いことばかりではありません。自分だけではなく、多くの人が親となって子育てをしてきているわけです。大変な思いをするかもしれないけれど、それでも子育てができないはずはない。まずはそう思ってください。

 そのうえで大切なのは「子どもを尊敬すること」です。生まれたばかりの子どもは小さくて、つい上から目線で接してしまうことが多いものです。ですが、小さい子どもでも言葉は完全に理解できていると思って接してほしいと思います。

 たとえば、お子さんが夜泣きをする。そういうときも敬意を持ってあやすのです。具体的には「あなたが泣きたい気持ちはよくわかるけれど、お父さんもお母さんも昼間に仕事をしているのですごく疲れています。だから、お願いですから、泣き止んでいただけませんか?」と。こう言うと、多くのお父さん、お母さんには信じてもらえないのですが、この言葉の調子は必ず伝わります。逆に「いい加減泣き止め!」などと怒鳴ると、子どもはよけい泣き叫ぶわけです。

 ですから、小さな子どもにはこちらの言葉がわからないだろうと思わずに、大人と同じように丁寧な言葉を使い敬意を持って接することを心掛けてはいかがでしょう。

古賀史健:言葉に関連することで、僕も思うんですが、たとえば海外旅行に行ったときなどに、いま岸見先生がおっしゃったことの子ども側に我々も立つと思うんです。相手が言っていることは何となくわかるけれど、自分の思いはうまく伝えられない。ただ、英語やフランス語がうまく使えなくても、心のなかではイギリス人やフランス人と同じように僕らも考えているんですよね。それを伝える術を持ってないだけであって。

 おそらく子どもたちも、まだ単語レベルのことしか話せないとしても、思っている量は全く同じなんです。うまくそれを伝える術を知らないだけで。

 だから、言葉がうまく使えないとか、気の利いた言い回しができないとか、知っている単語の数が少ないとか、そういうことで子どもを自分より下の存在だと考えるのは間違いなんです。思っている量はまったく同じなんだ、ただそれを伝える言葉までの距離が僕たちより遠いだけなんだと考える。これがアドラー的な子どもとの接し方だろうと思います。