リカードがこういう理屈を作り出したのには、当時の資本家の利害がからんでいました。1815年にナポレオン戦争が終わると、イギリスの地主階級(ジェントリー)は政府に穀物法を制定させました。戦争が終わって社会が安定すると大陸から安い小麦が入ってくるので、国産小麦を売っている自分たちの儲けが減ります。それはイヤだと言うことで「1クォーター80シリング以下の小麦は輸入禁止」ということにしました。

 これに対し、産業革命の担い手として商工業を仕事にしていた資本家たちは反発します。資本家は雇っている労働者たちに食べていけるだけの給料を払わないといけませんから反対したのです。

 安い小麦が輸入できるようになったら、その分、労働者に払う給料を減らせる。すると自分たちはもっと儲けられるようになる。そう考えた資本家たちは、リカードの言うことに飛びついたというわけです。

 現代も事情は同じです。円高によって多くの日本メーカーが海外に出ていったのも、欧米のメーカーが中国や東南アジアに工場を造ったのも、安い人件費を求めてのことでした。