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基本給を底上げするベースアップ率が、今年の春闘では33年ぶりに5%を超える高水準となった。だが1970年代の高度成長期の20%や30%には遠く及ばない。その頃と比べれば、ベースアップ率より定期昇給率のほうが高い時期が続いているのが現実だ。これは経団連も求めていたことだが、それでも企業は苦しいという。そのわけは……。※本稿は、濱口桂一郎『賃金とは何か』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。

戦後になって登場した
賃金のベースアップ

 賃金政策の方向性として定期昇給制を明確に提示した公式文書としては、1954年9月に、日経連の地方団体である関東経営者協会賃金委員会が公表した『定期昇給制度に対する一考察』が有名です。

 その言うところでは、戦前の賃金問題は一応全部昇給により解決されていましたが、戦後民主化に伴い労働組合が設立され、物価騰貴に伴う生活水準低下に対処するため戦前にはなかったベースアップが登場し、戦前の昇給制度は消滅してしまいました。

 しかし、国際収支悪化を契機に賃金抑制策が真剣に検討される中で、電産(編集部注/日本電気産業労働組合。電産型賃金は、本人、家族の生活を保障した上で、能力給、勤続給を加味したもので、労働組合の賃金要求のモデルとなった)ベースアップ要求に対する中労委(編集部注/厚生労働省中央労働委員会)の定期昇給勧告を契機に、「今や定期昇給制度はデフレ下の賃金問題に対し極めて実践的役割を持つものとして採り上げられるに至っ」たというわけです。その中でも特に注目すべきは、人件費との関係です。