……ベース・アップとは文字通りに考えれば労務費総額を全労働者数で除したる商が賃金ベースであるからこれを引き上げることであるということができる。従ってベース・アップの内容である配分は問題にならないかにみえるが、しかし多くの場合はベース・アップの内容は支払基準即ち支払の条件及び額の膨張を伴わないと実施しえないので、賃金体系変更の一つであり且つ労務費が増大するものと規定しうる。

賃金の総額は変わらない
エスカレーター式の定期昇給

 これに対して定期昇給の場合は賃金体系を固定したまま労働者の新陳代謝、労働の量質の向上に伴う労働者個々人の査定替えでありベースとは全く無関係である。しかも賃金体系を固定化してあるため長期的には労務費の増大をきたさないものとみられている。

 従って定期昇給がベース・アップとは場を異にするにも拘らず、それを否定する形において登場してきたということは企業の実態から労務費を増大せしめるが如きベース・アップはできないという事情にあること、又国際収支の悪化している国民経済の危機の現状からも輸出阻害要因となる製品コスト引上げをもたらす賃金増額が不可能な点からも定期昇給がせいぜい限度であるということである。……