すなわち、1950年代に「ベースアップの代わりに定期昇給を」と主張していた人々が現役で活躍していた間は、その主張は全く実現することはなく、彼らが引退した後、場合によってはこの世から去った後になって初めて、その希望通りベースアップが急速に縮小し、遂にはほぼ消滅したということです。

 なんとも皮肉な事態ですが、まさか40年以上も昔にかけておいた呪いが忘れた頃に効いてきたというわけではないでしょう。

定期昇給だけなら
平均賃金は変わらない

 さて、経営側がベースアップの代わりに定期昇給を唱道した最大の理由は、それが人件費の増大をもたらさないはずだからです。

 先の関東経営者協会の『定期昇給制度に対する一考察』が「個々の労働者はエスカレーターの各段階、即ち基準線の一定の所に位置し、年々職務遂行能力の上昇によって、段階を昇って行くが、最上段の労働者が企業外へ離職して行き、新たにその代りに最下段に新しい労働者が入り、エスカレーター全体いわば人件費総額は内転して常に一定である」と述べた通りです。