首相がいくら旗を振っても
職務給への切り替えは見込みナシ

 それなら、賃金の下部構造を職務給に取り替えればいいではないか、ちょうど都合のいいことに、岸田政権は新しい資本主義という旗印の下で、賃金の決め方(賃金制度)を職務給の方向に向かわせようとしていることだし、と思った方もいるでしょう。

書影『賃金とは何か』『賃金とは何か』(朝日新書)
濱口桂一郎 著

 しかし、首相が職務給を唱道すれば世の中がそちらの方に向かっていくのであれば、60年前の池田首相の時代にそうなっていたはずです。そうはならなかったのです。むしろそれとは全く逆の方向に進んでいき、干支が一巡した頃になって岸田首相が全く同じ台詞を口にしているというのが現実なのです。

 少なくとも、現在数多くの人事労務コンサルタントが、時流に乗った形で各企業に必死に売り込もうとしているハイエンドなホワイトカラー向けの職務給の数々をいかに並べ立てたところで、それがジョブ型社会の団体交渉のようなジョブの値札の一斉書き換え運動につながっていく見込みはほとんどないと考えたほうがいいでしょう。