ところが、その値札のつくべき職務というものがほとんど存在していないのが日本なのです。職務概念の欠落した「銘柄」とは何か。それは結局、勤続年数や年齢といったものに落ち着くしかありませんでした。つまり、日本的な個別賃金要求は、年功賃金制をより強化する方向にしか向かいようがなかったのです。それは既に70年以上昔に全自日産分会(編集部注/全自は、全日本自動車産業労働組合の略称。日産自動車にあった下部組織が日産分会)が試みていたことでした。

 では、そういう勤続年数や年齢ではなく、職務に基づいた個別賃金要求を日本で展開していく見込みはあるのでしょうか。

 欧米のジョブ型社会ではごく普通の常識として行われていることですが、現実の日本ではこれほど難しいことはほかにないのではないかと思われるくらい困難な課題だといわなければなりません。

 賃金の上げ方は賃金の決め方の上に成り立つものです。属人的、年功的な所属給である日本の賃金の決め方の上には、それと密接不可分な仕組みとしてのベースアップと定期昇給という賃金の上げ方/上がり方が乗っていて、上部構造だけを取り替えるというわけにはいかないからです。