14年ぶり政権交代の英国で募る、移民に対する国民の「不穏な不満」【池上彰・増田ユリヤ】英国への亡命希望者の宿泊施設として使用されているサウスヨークシャー州ロザラムにあるホリデイ・インエクスプレスの外で反移民支持者たちと警察官が衝突。2024年8月4日撮影 Photo:PA Image/JIJI

移民を巡る暴動の発端は「うその情報」

池上 14年ぶりに保守党から労働党への政権交代を果たした英国で、移民を巡る大きな暴動が起きました。7月末にサウスポートでダンス教室が襲撃に遭い3人の子供が殺害された事件が起きたのですが、事件後、「容疑者は移民のイスラム教徒だ」とするうその情報がSNSに投稿されて拡散。

 これを見て移民の仕業だと思い込んだ人々が移民政策などに対する抗議を起こし、暴動化したのです。しかも各都市に飛び火し、計1000人以上が逮捕されました。

増田 ダンス教室を襲って逮捕された少年の両親はアフリカのルワンダ出身ですが、本人は英国生まれ、英国育ち。イスラム教徒でもありませんでした。うその情報がここまで拡散し、暴動を引き起こす状況に驚きを隠せません。

 英国では移民問題は引き続き大きなテーマになっています。政権交代が起きた7月上旬の選挙期間中に英国を取材しましたが、そのときインタビューした右派のポピュリスト政党、リフォームUKの党首のナイジェル・ファラージ氏は移民について「日本的対応を取るべきだった」と発言しています。

池上 つまり、難民や移民に厳格な対応を取って、国内に大勢入れないようにしてきた日本を「見習うべきだ」というわけですね。

増田 ファラージ氏の選挙区でブロークン・ブリテン(寂れた街)と呼ばれるイングランド南東部クラクトンへも行きました。軍用トラックで現れたファラージ氏を迎える支持者の熱狂も含め、どこか米国のラストベルトに似た雰囲気さえ感じました。

池上 ラストベルトから「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が誕生したように、ブロークン・ブリテンのような場所から、右派や極右のポピュリズムが勃興してくるのかもしれません。