事件発生から1週間となった、男子児童が刺殺された事件現場付近事件発生から1週間となった、男子児童が刺殺された事件現場付近 Photo:SANKEI

9月18日に中国・深センで起きた、日本人学校に通う10歳の男児が中国人男性に襲われて死亡した事件。中国政府は犯人の動機や事件の背景を明らかにしておらず、日本では詳しい情報がほとんど報じられていないが、亡くなった少年の父親が事件の翌日に書いたという、中国語の「手紙」があることをご存じだろうか。中国のSNSでものすごい勢いでシェアされ、多くの中国人が「涙が流れた」「本当に申し訳ない」とコメントしたという手紙。日本人の父親が、なぜ中国語で手紙を書いたのか。そしてその内容とは……。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

男児が刺された9月18日は、かつて「柳条湖事件」が起きた日

 9月18日朝、中国・深センの日本人小学校に通う10歳の男の子が、登校途中に見知らぬ男に刺された事件は、翌未明に男の子が亡くなるという最悪の事態となった。

 中国で9月18日は、1931年に日本が中国東北地方を占領するきっかけを作った柳条湖事件が起きた日として記憶されている。この事件自体は、日本軍が仕掛け、それを中国軍のせいだと主張したため、中国の歴史においては二重、三重に悔しい思いがある。

 ただ、事件からすでに90年以上がたっており、その日に中国人社会で、いわゆる「反日ムード」が立ち込めることはほぼない。この日の前後に(その他の屈辱的な歴史記念日と同じく)政府系メディアがキャンペーン記事を掲載する程度で、日ごろ中国国内で暮らしている日本人も、それほど気に留めていなかったはずである。

 なのに、そんな日に起きた小学生殺害事件は、日本人社会のみならず、中国人社会をも震撼させた。日本メディアが事件の第一報を伝えたのはお昼前で、そのとき中国メディアはまだ一言も触れていなかった。だが、中国のSNSにはすでに「深センで子どもが襲われたらしい」「日本人の子どもらしい」という情報が回っており、筆者が最初に事件に気がついたのも彼らの書き込みからだった。