カンタス航空の航空機Photo:PIXTA

豪州でカンタス航空が国民から非難されている。主な理由は、市場を独占し、運賃が高すぎること。さらに、同じ航空連合ワンワールドに所属するカタール航空と「大げんか」中だ。これらの問題は、カンタス航空と長年、提携関係にある日本航空(JAL)の戦略にも影響しかねない。特に、ネットワークやマイレージ、そして経営計画や業績を揺るがす要素にもなり得る。(ライター 前林広樹)

豪州の航空市場が大波乱!
カンタスに批判殺到、LCC分離案が浮上

 オーストラリアで「影の交通大臣」の異名を取る野党議員の発言をきっかけに、南半球最大のエアラインであるカンタス航空(フルサービスキャリア)と、傘下のジェットスター航空(ローコストキャリア、LCC)の経営分離案が浮上し、同国内で盛んに取り沙汰されている。

 背景には、同国の航空運賃が近年かなり高騰し、世界的にも高い水準に達していることが挙げられる。事実、2023年1~6月時点の航空運賃は19年と比べて、以下のように高騰している。

◆ジェットスター:国内・国際ともに27.4%増
◆カンタス:国内線で22.6%増、国際線で52.2%増

 高騰の主な原因は、コロナ禍での座席供給数の減少が、現在の需要回復に追いついていないことだ。が、それだけではない。航空業界にプレイヤーが少なく価格競争が起こりにくい点が問題視されているのだ。

 オーストラリアの航空市場は、カンタスグループ(傘下LCCのジェットスターを含む)と、ヴァージン・オーストラリアの2社で95%のシェアを占めている。中でもカンタスグループは国内で66%のシェアを占め、ほぼ1強と言える。かつては2強の一角であったアンセット・オーストラリア航空をはじめ複数のエアラインが存在したが、次々と淘汰されてしまった。残ったヴァージン・オーストラリアもコロナ禍で経営が悪化し大型機を手放すなど再建途上にある。

 航空市場のカンタス1強は、オーストラリアの食品市場(上位2社で64%)よりも高い独占率であることから、批判の声が同国内で強くなっている。日本のような高速鉄道網がないオーストラリアでは、国内長距離移動は飛行機に頼らざるを得ない。カンタスに対しては、「サービスに見合った価格設定になっていない」といったユーザーのレビューも多い。カンタスの独占は批判されて然りともいえる雰囲気が醸成されている。

ワンワールド内でカタール航空と
カンタス航空が「大げんか」

 また、カンタスは、同じ航空連合(アライアンス)のワンワールドに所属するカタール航空との対立も深刻化している。きっかけは23年夏、カタール航空がオーストラリア路線の増便を、オーストラリア政府当局に申請したものの、カンタスのロビイング活動の影響で拒否される事件があったことだ。

JALの経営に影響大?ワンワールド内「大げんか」も!豪州航空市場が大波乱Photo:PIXTA

 この事件以降、両社は同一アライアンスに所属しているとは思えないほど関係が悪化し、互いの路線にコードシェアを付けていない。また、つい最近9月には、カタール航空がヴァージン・オーストラリアの株式取得に向けて交渉していることも明らかになった。仮にこのディールが実現すれば、カンタスとカタール航空の不仲はさらに強まるだろう。

 ワンワールドの創立メンバーであるカンタス航空と、ドーハを拠点に広大な路線網を持つカタール航空はアライアンス内での発言力が大きい。両社の対立が他のワンワールド加盟各社にも影響を及ぼさないか、不安になるところだ。

 そしてこれらの問題は、カンタス航空と1986年にコードシェアを始めて以来、提携関係にある日本航空(JAL)の戦略にも影響しかねない。特に、ネットワークやマイレージ、そして経営計画や業績を揺るがす要素にもなり得る。