10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。(初出:2021年10月7日)
そもそも、
なぜ「利き〇〇」があるの?
文字を書くときや歯を磨くとき。また、ハサミを使ったり爪を切ったりするときなどに、優先的に使う手が「利き手」です。また、多くの人には「ボールを蹴りやすい足」や「階段を登るときに先に出る足」といった「利き足」も存在します。
さらに「利き目」や「利き耳」、そして「利きアゴ」など、人間のカラダの左右、両方にあるパーツには、無意識のうちによく使う側、「利き○○」があります。
あなたは望遠鏡のような小さな穴を覗くとき、たいてい同じ目で見ていませんか。人は「利き目」を軸として、もう片方の目で補いながら物を見ています。また、電話で話をするときも、いつも同じ側の耳にあてるのではないでしょうか。無意識のうちに、右か左の噛みやすい奥歯で食べものを咀嚼している人も少なくないでしょう。
こうした「利き○○」は、人間が二足歩行をするようになってから生まれたものだと考えられています。
直立歩行をするようになると、両手が自由に使えるようになり、細かく作業を分けて行うことができるようになります。作業を左右の手で分担することで、効率よく物事を同時に処理する能力を獲得できるのです。
たとえば、我が家のペット犬のコッちゃんは、いつの間にか私が食事をするときに、自分もおやつがもらえると考えるようになりました。そして私の右側に陣取り、おやつを欲してしきりに吠えるので、左手に箸を持ちながら、右手で小さなドッグフードを取り出して食べさせています。時々、家人らと「コッちゃんの目を見てあげてください」「いや、私は手に目があるよ」と屁理屈を言いながら、両手を使ってコッちゃんと食事タイムを楽しんでいます。
また、「利き○○」は、脳の負担を減らすことにも役立っていると考えられます。
たとえば、転びそうになったり何かに襲われそうになったりなどの危機的な状況に陥ったとき、とっさに右手でかばうなど優先順位が決まっていると、ムダな動きが減って危険を回避する確率が高まります。
つまり、「利き○○」を持っていると、処理速度が速くなるわけです。日常の動作でも、あらかじめ左右で機能を分担させておけば、脳はいちいち指令を出す必要がなくなるでしょう。
そうした理由からも、無意識のうちに主に動かす「利き○○」が、さまざまな部位に存在していると考えられるのです。
このように、人類の生活スタイルの変化に伴って「利き○○」ができ、脳の機能が、遺伝的にも後天的にも変わっていくことは、非常に興味深い事実です。
(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com