遺言書の財産分けは冷たい内容
だけど付言で温かい贈り物に

 これは数年前に亡くなった町工場の社長さんの付言です。

 二男とは長年不仲だったそうですが、一方で「商売のこともあるから、二男のやつには何も遺してあげられないけど、二男のことは可愛くてしょうがないんだ」ともおっしゃっていました。

 そこで私が「たとえばどんなところですか?」と尋ねたときに照れくさそうに語ってくれた内容の一部を遺言の付言とされたのです。

 葬儀を終えた1週間後、私は預かっていた遺言書の内容を伝えるためにご自宅を訪問しました。相続人は奥様、長男(事業後継者)、二男(亡父と長年不仲)です。遺言書を読もうとしたところ二男は「興味ないから」と私に背を向けて聞こうとしませんでした。

 しかし、本文を読み終え、この付言に差し掛かった3行目には背を向けていた二男の肩が揺れていました。泣いていたのです。私がご自宅を去るときに、「親父には参りました。ありがとうございました」と笑顔で送ってくれた二男の顔が印象に残っています。遺言執行手続きも無事に終わりました。

 遺言書の財産分けの報告は二男にとってはとても冷たい内容のものです。だからこそ、付言でハートを込めて温かい贈り物にしてあげてください。今不仲でも掛け値なしに可愛いときがあったはずです。「事情があって配分は偏るが、愛情には差がないんだ」ということが伝わるようにです。