通帳を手にする女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「相続は地獄の作業」と言われることがある。家族の財産を相続する際には、厄介な預貯金口座の手続きが待ち受けているからだ。特に転勤族は、地方に預貯金口座を開設することがあり、残された家族にはわからない「眠る財産」が生まれることがある。この記事では預貯金口座が地獄の相続に発展するワケを解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)

地方の銀行口座は
相続手続きの地獄の入り口?

 経済アナリスト、大学教授として知られる森永卓郎氏が執筆された『相続地獄―残った家族が困らない終活入門』という書籍をご存じだろうか。

 本著には、相続が生み出した騒動がわかりやすく記されている。森永氏の亡父は新聞記者だったため、転勤族として暮らしていた。そのため、地方にも銀行口座が開設されていたことが、死後に発覚したそうだ。口座を1つずつ調べる作業も含めて、森永氏は相続手続きを「地獄の作業」と表現しているが、一体なぜ地獄を感じるまでに至ったのだろうか。

 相続が開始され、遺言書がない場合は、残された家族が財産を相続するために遺産の種類や金額を調べる必要がある。相続人の間で遺産分割協議をするために、亡くなった家族がどのような財産を所有していたのか、確定させるために調査をするのだ。遺産には現金、預貯金、不動産や有価証券などが含まれる。

 現金や預貯金は生前に所有している方が多く、遺産の代表的な存在だ。特に預貯金口座は給与口座として開設する方が多く、家賃、教育費、保険やスマホ代などが引き落とされている。普段はメインバンクを持っていても、森永氏の亡父のように、地方に暮らしている時は地元銀行の口座が使いやすいなどの理由で、新しい口座の開設に至ることもある。

 次の転勤時に解約していればよいものの、引っ越しや業務引き継ぎなどの慌ただしさもあり、放置したまま転勤してしまうことがあるのだ。すると、開設した本人さえ地方銀行の口座を忘れてしまい、相続時に家族が手続きにほんろうされることとなる。