訪問看護師の山下みゆき氏は、父親の孤独死を教訓として、孤立者の支援のため「さえずりの会」を立ち上げた。多くの当事者に寄り添い続ける彼女が、高齢者のセルフネグレクトの実態を語る。本稿は、菅野久美子『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
毎日とんかつとハンバーグで高血糖
糞尿まみれで悪臭を放つ部屋
現在、山下は父の孤独死の体験を活かすために、訪問看護師として、ゴミ屋敷の住人とも積極的に関わるようにしている。もっとおせっかいを焼いていれば、父の異変にも早く気づけたかもしれない。
父のような人が世間にはごまんといるはずだ。そんな思いが、山下を突き動かしている。
今、受け持っているのは、糖尿病を患っている河合千代(仮名・70代)だ。計測器の針が振り切れるほどに血糖値が高くなったことがあり、路上で倒れているのを発見されて、救急搬送された。
それ以降、山下は、千代を数日おきに訪問して、血糖値を測ったり、薬を服用させたりするなどの訪問看護を行っている。
千代が住む埼玉県の3LDKのマンションは、幾層にもゴミが堆積した足の踏み場がないほどのゴミ屋敷で、ドアを開けると、すぐにツンと異様な臭いが鼻についた。
奥にあるキッチンは、もはやたどりつくことすらできないほどに、ゴミで溢れていた。
千代は風呂にも入らず、同じ洋服を毎日着ているせいで、お尻のあたりは生地が摩耗して、下半身の一部が露出している状態だった。
常時おむつをつけていて、排泄すると口の開いたビニール袋の中に放置してしまう。部屋のいたるところに糞便にまみれたおむつが無造作に置かれ、この世のものとは思えない凄まじい悪臭を放っていた。
俗に言う、典型的なセルフネグレクトだ。