【オフィス変革の潮流(後編)】3社の実例でわかる、これからのオフィスのあり方と“働き方変革”の深化

コロナ禍を経て、「人が集まることの価値」が再発見されている現在(いま)、「オフィス回帰」の流れが強くなっている。そうしたなか、「人が集まる場所」としてオフィスに求められるものは、どう変わっているのだろうか。企業の知的生産性向上を目指す「働き方変革」、教育現場における主体的な学びを目指す「学び方変革」をパーパスに、来年、創業115年を迎える株式会社内田洋行は、変わりゆくオフィスニーズにソリューションを提示する存在として多くの企業から信頼を得ている。同社グループの売上高は、約65%がICT関連ビジネス、35%が環境構築ビジネスで構成されている。環境構築ビジネスに携わる「オフィスエンタープライズ事業部」の髙橋善浩さん、もうひとつの柱=ICT関連ビジネスに携わる「エンタープライズエンジニアリング事業部」の村田義篤さんのお2人に、昨今のオフィス構築の潮流について話をうかがった。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*本編は、「【オフィス変革の潮流(前編)】ICTの活用と快適なオフィス空間が、一人ひとりの働き方を変革していく」の続きです。

 

「働き方『変革』」の価値をメッセージしながら、あらゆる企業のオフィス構築をサポートしている内田洋行。その実際のサポート事例を見ていこう。

オフィスの変化が行動変容を促進――JR東日本 東京建設プロジェクトマネジメントオフィス

 東日本旅客鉄道株式会社の建設工事部という組織に属し、鉄道関連の大規模工事を手がける東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(以下、東京建設PMO)――その、移転を支えたのが内田洋行だ。内田洋行は、東京建設PMOの「究極の安全」の実現に向け、「変わらぬ価値と変わる価値」というコンセプトを掲げて、オフィス構築(*1)に取り組んだ。

*1 東京建設PMOの新オフィスは、第36回日経ニューオフィス賞で「ニューオフィス推進賞」を受賞。

髙橋 もともと、東京建設PMO様のオフィスは「島型対向配列」のレイアウトだったのですが、移転後はABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)導入しました。最近では、オフィスをリニューアルする企業の約9割がABWを――つまり、従業員が時間と場所を自由に選択する働き方を採用しているようです。

 オフィスのレイアウトとしては、フロアの外周部に回遊動線をつくり、そこにミーティングスペースも設置しました。フロアの中心部に置いた執務空間は課長職までが入り交じるフリーアドレスで、歩きながらたくさんの人の顔が見えるようにデスクをジグザグに配置しました。また、多目的スペースをセミオープンにして、空間内で何が行われているのかが外からもわかるようにしたのも特徴です。

 東京建設PMOの事例で興味深いのは、オフィス構築に伴って、従業員の行動や業務内容に変化が表れたことだ。社内におけるコミュニケーションの活性化だけではなく、社外とのつながりからオープンイノベーションが生まれるなど、その変化は内田洋行が予想していた以上だったという。

髙橋 オープンイノベーションの一事例として、多目的スペースに近隣の高校生を集めて、「駅にあるとうれしい機能」をテーマにしたアイデアコンペを開催し、その受賞作を製品化したそうです。以前のオフィスではこのようなイベントは思いつきもしなかったとのこと。

 また、フリーアドレスを導入したことで、東京建設PMO全体の残業代が減ったようです。かつては目の前に管理職がいるために帰りづらい部下がいたそうですが、フリーアドレスだと上司がどこにいるのかわからないので帰りやすくなったというのです。さらに、オフィスが新しくなったことを機に、「ビジネスカジュアルデーをつくろう」という動きも出てきました。

 このような成果が出たのは、東京建設PMOのプロジェクトチームの皆さんが、働く仲間たちの納得感を重視し、私たち内田洋行と協業する前から社内で働き方についての議論を繰り返し、情報を丁寧に発信していたからでしょう。

 JR東日本は、風雪や落石から線路を守る「鉄道林」を各地の鉄道沿線に保有している。今回のオフィス構築では、そうした鉄道林から伐採した木々を什器類に活用した。鉄道を守ってきた木々が什器や建材に生まれ変わり、新しいオフィスでも役に立っているのだ。

髙橋 一般的に鉄道林は什器や建材に向かないと言われていますが、私たち内田洋行グループの“木を熟知するメンバー”が伐採や木材の選別に関わり、建材に適した部分を無駄なく使用する方法で什器を製作しました。納品後には、東京建設PMOの従業員の方々が、木材に「鉄道林」という焼き印を押すワークショップも行いました。