ダイバーシティを実現する、ハウス食品グループの“組織風土改革”とは?

ハウス食品グループはカレーやシチューの素などの商品がおなじみだが、国内外に43の連結子会社を持ち、グローバルに価値を創造する企業グループへの変革に取り組んでいる。従業員の「属性」「経験」「適性」も多種多様になっており、成長を実現するために多様な個性の発揮と融合を促進している。「全員参加の職場の改革サイクル」と「会社の風土改革サイクル」を回して目指すものは、「一人ひとりが働きがい(成長実感・チャレンジ)を感じながら変革に向けて挑戦する組織」だという。ハウス食品グループ本社株式会社・人材戦略部の根耒伸至さん(人材・組織開発課長)と井ノ上友美さん(学習機会開発課 学習機会開発チーム チームマネージャー)に話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)

いま、なぜ、“ダイバーシティ推進”が必要なのか

永田 御社は、経営戦略で「ダイバーシティの実現」を掲げ、社員一人ひとりが活躍できる会社を目指しています。まずは、その背景から教えていただけますか?

根耒 弊社は2015年に策定した第5次中期経営計画以降、「『食で健康』クオリティ企業への変革」というテーマを掲げてきました。「クオリティ企業」とは、企業内部における価値創造に主眼を置く企業のことで、企業の外部にある好機、つまり、オポチュニティをつかんでビジネスにつなげていく「オポチュニティ企業」に対する表現として使われます。これまでの弊社は、まさにオポチュニティをつかんで成長してきたわけですが、これからは従来の強みに加えて、内部からイノベーションを生み出しながら持続的に成長する「クオリティ企業」を目指していくことになりました。変化の目まぐるしい時代のなかで変革を進めていくには、グループのなかにダイバーシティ、即ち多種多様な知と経験が結集されている状態を創り出し、一人ひとりの多彩な個性と強みを生かしていくことが欠かせません。

永田 そもそも、イノベーションが求められるようになった環境面の変化としては、どのようなことが挙げられますか?

根耒 昨今は人口減少など日本を取り巻く状況が大きく変化しており、これまでどおりにやっていてはうまくいかない側面が多々出てきています。また、グローバル化が進むなか、食品会社が海外で成功を収めるには、それぞれの国の文化に根ざした価値を提供していく必要があります。つまり、私たち自身が「内側(=社内)から多様性を身につけること」が欠かせない時代に突入しているのです。

永田 そのような動きに伴って、社員にはどのような行動変容を求めていますか?

根耒 求める行動変容は2つあります。1つ目は、多種多様な人が集まってくると、反対意見も含めて、これまでにはなかった意見が出てくるようになりますが、そうした状況を一人ひとりが受けとめること、つまり、多様性を受容することです。まずはそこがスタート地点ですね。2つ目は、ただ多様な人が集まるだけではイノベーションは起きませんから、多様性を力に変えていくために、一人ひとりが新しいことにチャレンジしていくことが大切です。とはいえ、「よし、今日から変わるぞ!」と簡単には思えないのが人間ですよね。変化することに戸惑いを感じている方々に対しては、会社が求めていることを理解していただけるように、かつ、そのなかで働きがいを感じていただけるように様々な取り組みを進めています。

永田 “ダイバーシティの質”の切り口では、御社は「属性」「経験」「適性」の多様性を重視するとされています。そのあたりを詳しく教えてください。

根耒 「私たちにとって大切な多様性とは何だろう?」という議論をした結果、「属性」「経験」「適性」の3つにフォーカスすることになりました。「属性」というのは、性別・国籍・障がいの有無などを指します。属性の多様性は、女性活躍、障がい者雇用、グローバル採用などによって高めることが可能です。「経験」は、従業員それぞれがこれまでの人生を通じて独自に積み重ねてこられたものです。弊社はかつて新卒採用が中心だったのですが、意図してキャリア採用を拡充してきたことで、幅広い経験を持つ方々と一緒に仕事をすることの価値を実感しています。結果、ここ数年でキャリア採用の比率が上がっており、新卒社員と中途入社社員の比率は、6:4になっています。「適性」とは、多様な個人がこれまでの経験のなかで培ってきた個性的な強みのことを指しています。その方の「価値発揮のパターン」のようなものですね。