「試合後の記者会見では“まだまだ頑張ります”とか言ったんですけど、自分の中ではわかってました。ああ、これが最後のワールドカップ、最後の日本代表やなって。負けた。ベスト4、行けへんかった。悔しい。でも、正直、達成感もありました」
タイムアップの瞬間、それまでに流したことのない涙が、田中の頬を伝わった。
別れの涙、だった。
自分が、ワールドカップの舞台に立つことは、おそらく2度とない。さらば、ワールドカップ。
自分が、桜のジャージに袖を通すことも、おそらく2度とない。さらば、ジャパン。
数えきれないほどの時間、寝食を共にし、地獄を潜り抜けた31名の仲間が、再び同じチームのメンバーとして戦うことは、2度と、ない。さらば、友よ。
「笑わない男」稲垣啓太も
笑顔を抑えるのに苦労して
ピッチに横たわって東京の夜空を見上げながら、田中はしばし、感情の奔流に身を委ねた。その夜、宿舎は大変な騒ぎになった――はずだった。
「あんまり記憶が残ってないんですけど、まあ、めっちゃ呑んだと思います」
別れの朝がやってきた。
呑み明かし、語り尽くしたはずなのに、田中の涙腺は再び緩んだ。