田中は、完全に号泣していた。

 少しでも多くの人に選手1人ひとりの表情、姿を観衆に見てもらうべく、選手たちは4つの班に分かれて仲通りを歩くことになっていた。

田中だけは何回も何回も
律儀に頭を下げた

 3班に振り分けられた田中が歩き始めたのは、1班のリーチマイケルたちがスタートして5分ほど経ったころだっただろうか。班の先頭に立った田中の頭を、後ろにいた田村優が軽く叩いた。なあに泣いてるんですか、とでも言いたげなツッコミだった。

 ひょっとすると、田村としては何らかのリアクションを期待しての行為だったかもしれない。だとしたら、期待は裏切られた。なにすんねん、でも、イタタ、でもなく、田中は肩を震わせるだけだったからである。

 パレードには、ありがとうが満ちていた。かけられる言葉だけではなく、わざわざこの日のために用意してくれたと思しき横断幕には、「ラグビーを好きにしてくれてありがとう」とのメッセージが書かれたものもあった。

 嬉しすぎて、幸せすぎて、田中は泣いた。涙をこらえようとする努力は、まったくもって無意味なものになっていた。ほとんどの選手が歓声に手をあげて応えるなか、田中だけは声の聞こえてきた方向に、何回も何回も、律儀に頭を下げた。