それが、彼にできる精一杯の感謝だった。

 全速力でダッシュすれば1分程度で走りきれてしまう距離を、選手たちはゆったりと歩いた。田中は、かつてエディー・ジョーンズ(編集部注/2015年W杯日本代表の指揮官)が言っていたことを思い出した。

「他の国で、選手に100メートル走を100本やれって命じたとする。みんな、中指を立てて家に帰るだろうと。でも、日本人は違う。文句を言いつつも、きっちり100本をやりきろうとして、実際に、やる。そこが日本の強さ、強みやぞってことを、ずっと言ってましたね」

 やれと言われればやるのが日本人の特徴、強みだとしたら、桜のジャージを着た外国人たちにも日本人と同じ対応を求め、そして、日本人と同じようにやるようになったのが、エディー以降の日本だった。

笑顔でパレードを終えた仲間
ひとり目が真っ赤な田中

 だが、エディー・ジョーンズだろうがジェイミー・ジョセフ(編集部注/2019年W杯日本代表の指揮官)だろうが、世界のどんな名将から全力でのダッシュを命じられたとしても、この場、この時、12月11日の仲通りでだけは、さしものジャパンの選手たちも命令に抗ったかもしれない。早く終えてしまうにはあまりにも惜しい、というより、永遠に終わってほしくないパレードを、田中たちは味わっていた。